今宵は木挽町で・・・
・・・というのは昨夜の話ですが、久しぶりに木挽町の歌舞伎座に参りました。
今月は猿若祭と銘打って、中村屋を中心とした配役と所縁の演目が並びました。
世間を騒がせたあの陰惨なスキャンダルから、少しずつ人気も回復しているようです。
この日は大入り満員でした。今年は松竹創業130年にあたる記念の年なんですね。
この樽酒を振る舞ってくれないかなあー(アホ)
オッサンが見に行った夜の部の最初の演目は、「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐん
き)」より「阿古屋(あこや)」です。ちょうど下関の壇之浦を見てきたところですが、
源平モノの中でも「義経千本桜」と並ぶ名作ですね。遊君阿古屋を演じるのは当代一の
女形・坂東玉三郎です。一時は大舞台から引退すると宣言していた玉三郎が方針を撤回
し、歌舞伎座にも出続けてくれているのは何よりです。
玉三郎の花魁物は初めて見ましたが、余人を持って代えがたい気品と美しさですわ~
これは見ておくべき舞台の一つだと思います。
「阿古屋」のストーリーは、平家が滅亡して源氏の世になった頃の話。平家の残党?の
景清の行方を追う源氏方が、景清と情を交わしていた阿古屋を捕らえ、詮議(拷問)を
するというイタい話です。
しかしこの芝居の見どころは、その「詮議の責め」の場にあります。といいますのも、
裁き役の秩父庄司重忠が阿古屋に命じた拷問とは、「琴、三味線、胡弓」の演奏だから
です。遊女阿古屋役の俳優は、その命に従って舞台の上で実際に演奏をしなければなら
ず、きわめて難易度の高い役だと言われています。戦後はあの六世中村歌右衛門丈と、
この玉三郎くらしか演じる人はいない状況でした。その玉三郎の阿古屋は、やはり見て
おかねばならないだろうと思って切符を購入したのでした。
いやはや、なかなか大変な役ですね。琴、三味線、胡弓を次々に弾きこなしつつも、
その演技をもって判事の重忠に「音の乱れが一切ない。ゆえに阿古屋の言に嘘偽りは
ない」と言わせなければならないのですから・・・ちゃんと練習しないと・・・
(まぁ歌舞伎の場合は、声と三味線はアシストがあるのですけどね・・・)
なんだか「歌に生き、恋に生き」のトスカみたいですが、西洋人のスカルピアには
トスカの訴えは通じなくても、阿古屋の思いは日本人の重忠には伝わりました。人情
を大切にする日本人ならではのストーリーだなと改めて思いました。いや、違うか、
トスカはアンジェロッティの潜伏先を知っていたのに対し、阿古屋は景清の行方を
本当に知らなかったのですから、結果が違うのは当然かもしれませんね・・・
裁き役は音羽屋の尾上菊之助、今年は菊五郎の襲名が決まっています。幸四郎と共
に歌舞伎座を背負って立つ現役世代のスターの一人になりつつあります。動きがなく
難しい役ですが、立派な人物らしい雰囲気をうまく出していました。
このシリアスな芝居の中で、ちょっとユーモラスな役回りをする岩永左衛門には若手
の種之助が抜擢されていました。黒衣(くろこ)二人に抱えられて文楽人形のような?
コミカルな動きで笑いを取るのですが、なかなかオモシロイ趣向だなと思いました。
ここで少し早いですが、お弁当を開きます。ちょっと高いですが観劇弁当です。
普通の幕の内ですが、なかなか美味しかったです。高いけど・・・(しつこい。by妻)
二演目目は「江島生島(えじまいくしま)」という珍しい演目です。江戸時代に実際
にあったという役者と大奥の女中の禁じられた恋を題材にしています。
許されぬ愛を見咎められた二人の行く末は、女は信州高遠、男は三宅島への流刑でし
た。物語は狂人となり果てた男、生島が脳内で再現する過去の逢瀬の場と、三宅島の浜
辺をさまよい歩く場で構成されています。
生島は菊之助、そして江島は中村屋の次男坊、七之助が演じていました。この演目も
ストーリーは悲しげですが、なかなか美しい舞台でした。
オッサンの席は1階の中央付近の14列目となかなかいい席なのでよく舞台が見えま
した。幕間に二階席に行ってみると、こんな感じでした。やはり満席ですね。
そして夜の部最後の演目は、江戸庶民の人情話が炸裂します。その名も「人情噺文七
元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)」です。現役の中村屋の家族、勘九郎親子
と七之助が演じる、笑いあり涙あり、登場人物の誰一人悪人がいないという(そんな話
は普通はありませんが)心温まる人情物語です。
江戸っ子の左官屋長兵衛(勘九郎)は、腕の良い職人ですが酒と博打ですっからかん。
(「博打」と「旅行」を入れ替えたら、オッサンと一緒やな・・・by妻)
女房お兼(七之助:おかね?質の助?)からは散々ガミガミ言われても、どこ吹く風。
しかし大事な一人娘が行方不明となって、血相を変えて大慌て。娘お久(勘太郎)は、
実はお金の工面のために自ら身売りをしに行き、その大店の女房お駒(萬壽)が預かっ
ていたのでした。お駒はお久の孝行心に涙し、長兵衛に「心を入れ替えて来年の大晦日
までの一年で働いて返してくれれば、借金の肩代わりの50両を貸す」と申し入れます。
この大店のおかみさんの度量の大きさは大したものですが、それをベテランの萬壽が
巧みに演じていました。さすがは先代の時蔵・・・
しかし、感謝して帰宅する道すがらに事件があり、長兵衛はせっかくお駒に貸して
もらった50両を、見ず知らずの若者に与えてしまいます。店の金50両を失くして
川に身投げをしようとしていた身寄りのない若者文七を救うためでした。
「おい、若ぇの。命を粗末にしちゃあいけねぇよ~」と叫んで50両を投げつけて走り
去る長兵衛。この芝居のハイライトでは、客席は😢をすする方でいっぱいでした。
(勘九郎さんに警視庁の自●予防キャンペーンに出てもらったらいいんちゃうか?by妻)
夫が帰宅してその話を聞いた女房お金、ちゃうお兼は烈火のごとく怒り、長兵衛への
文句を機関銃のようにまくしたてます。七之助、演技とは思えないほど迫真の舞台です。
なんだか夫婦喧嘩なのか兄弟げんかなのかわからない感じですが・・・😆
そして、誰もが「ありえねぇ」と思いつつも、これ以上ない程のハッピーエンドへと
ストーリーは流れていくのでした。ココが西洋オペラ(救いようのない悲劇が多い)と
違うところかなぁ~ 日本人はやっぱり水戸黄門とか大岡越前とかが好きですからね。
(私もオッサンが仕事に行っている間、時代劇をよう見とったわ。by妻)
長兵衛の役は先代の勘三郎(勘九郎の父)の当たり役でしたが、息子たちや孫も一緒
にこの芝居を見事に演じているのを見て、先代も喜んでいることでしょう。それにして
も勘九郎はお父っつぁんにちょっとずつ近づいてきているかんじがするなぁ・・・
いやぁ久しぶりの芝居見物でしたけれど、良かったなぁ。
晴れ晴れとした気分で帰宅したオッサンでした・・・
帰宅すると、あれ? 誰もいないはずの部屋に電気がついている・・・
(そら、オッサンが電気を消し忘れて出かけただけやで・・・by妻)










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