Bonne(ボンヌ)のブログ

死別者ですが余生は少しでも楽しく

2019年夏:英国 ㉛ナショナル・ギャラリー その3

   いつまで美術館の記事を書いているんですか?
  スミマセン、あと2回です。あ、ちなみにナショナル・ギャラリーでは、フラッシュ
  や三脚を使わなければ、個人利用の写真撮影は自由なのです。念のため。
   
   今日は仕事納めで出社して残務整理、午後6時半には帰宅。ご飯を炊いて、あり
  合わせのおかずで凌いで、明日からの年末年始のために節約です。(といっても、
  遠くに旅行するわけではありませんが)


   さてナショナル・ギャラリー・シリース?の再開です。
  時代が下って16世紀から17世紀の絵画のコーナーです。このくらいの時代になると、
  イタリアやフランドル・ネーデルラント(今のオランダ・ベルギー)だけではなく、
  フランス、ドイツ、スペインの画家たちも台頭してきてバラエティに富んできます。
   前回のネーデルラント・ドイツの作品と時代が被りますが、まずは王国イタリア
  の後期ルネッサンス時代の画家の名作から参ります。


   トップバッターは、ヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノ様です。
  1520年頃の作「バッカスとアリアドネ」です。ギリシャ神話から題材をとった躍動
  感あふれる力作です。既にキリスト教の呪縛から完全に自由な感じです。彼の活躍
  した祖国ヴェネツィアは、キリスト教国でありながらも貿易と商業で栄えたリアリ
  ストたちの国です。良いものはいい、優れた芸術にはキリスト教には関係なくても
  称賛を惜しまない、という姿勢があったようですね。昔は芸術家がその力量を発揮
  するには、それを可能とする環境が必要でした。かのレオナルド・ダ・ヴィンチで
  すら、自分に仕事を与えてくれる庇護者を必要として、フィレンツェからミラノ、
  そしてフランスまで出向かなければならなかったのですから。
   あ、でもティツィアーノ様も、のちに時の最高権力者スペイン国王にスカウトを
  されマドリードまで奉公?に行っていましたね。教会からある程度自由になっても、
  権力者には従わないと芸術家もやっていけない時代ではありました。
   
   さて、この題材は恋人だった英雄テーセウスに振られ、落ち込んでいるクレタの
  女王(人間)アリアドネが、酒神バッカスに見染められ、夫婦になるという物語。
  どうもローマ時代の作り話のようですが、新興貴族たちが自分の教養をひけらかす
  ためにこうした題材を画家に注文していたみたい。この絵はかの有名なフェラーラ
  公国の公爵アルフォンソ・デステ(あの有名なイザベラ・デステの弟)が注文した
  のだそうです。教養があり政治センスもあったお姉様を真似して、アルフォンソ君
  も頑張っていたんだね。


  続いてヴェネツィア派の巨匠をもう一人、パオロ・ヴェロネーゼです。
 1565年頃に描かれた大作「アレクサンドロス大王の前のペルシャ王ダリウスの家族」
 です。イッソスの戦いでアレクサンドロスに敗れたペルシャ王の妻と娘たちが、逃げ
 遅れてアレクサンドロスの前に引き出されます。しかし彼(右側の赤い服の青年)は
 捕虜とせず、「王妃・王女にふさわしい待遇を与えよ」と部下に命じ、最終的に釈放
 してダリウスの元に返したと史実で伝えられています。これは、少ない兵力で敵地に
 乗り込んだ彼の戦略(敵側を懐柔する)だったのですが、この寛大なエピソードが、
 王としての彼の名声を高めた要因のひとつだったのでしょう。
  まさしくこの絵は、アレクサンドロスが英断を下した瞬間を描き出しています。
 ヴェロネーゼさんは、ヴェネツィアの教会や宮殿の壁や天井に、これでもかという
 くらい(ビッグサイズの)絵を描きまくった(=稼ぎまくった)人ですね。

 
  お、見忘れていたと思っていたラファエロ様の作品をひとつだけ鑑賞していました。
 1511年作の「ローマ教皇ユリウスⅡ世」です。この方は聖職者というより政治家、それ
 も非常に老練な遣り手だったようです。ローマ教皇(ローマ司教)がキリスト教の最大
 の庇護者という立場をとりつつも、ローマやイタリア半島中部(教皇領)の世俗領主に
 もなるという離れ業を定着させました。そしてそれを当時の大国(フランスやスペイン
 など)にも認めさせるという卓越した政治力。その一方で芸術家も庇護してきました。
  ラファエロは、この老獪な人物の魅力を絵画の力で引き出すことに成功しました。
 この実力派教皇の死後、ローマは神聖ローマ帝国皇帝カールⅤ世の侵略を受け(有名な
 ローマの略奪:サッコ・ディ・ローマ)、没落・衰退していきます。

   


  続いて少し知名度は低いですが、私の好きな画家の1人、北イタリアのパルマを中心
 に活躍したコレッジョ作、「愛の学校(ヴィーナスとメルクリウスとキューピッド)」
 です。キューピッドに勉強を教える家庭教師の?メルクリウス少年です。誰や?こんな
 題材を注文した人は?メルクリウス(マーキュリー)はギリシャ名はヘルメス。商売の
 神、神々のメッセンジャー(今だと情報通信・IT担当大臣)ですから、頭は良かったの
 でしょう。それよりも息子キューピッドが心配で見守りに来たヴィーナスの裸が目的で
 スケベなオッサン貴族が描かせたのかなぁ? 

     


  しかしナショナル・ギャラリーは本当に西洋美術史の教科書みたいなところですね。
  いかん、まだイタリア絵画しか紹介していない。どうしても長くなる。次に参ります。
  
  はい、当然ルーベンス様の絵画もあります。これは旧約聖書に題材をとった作品で、
 「サムソンとデリラ」(1610年頃)です。ユダヤの傑物で怪力のサムソンに痛めつけら
 れていたペリシテ人(パレスティナ人か?)が、売春婦デリラをそそのかしてサムソン
 の力の秘密を聞きださせ、その力の源泉である髪の毛を剃らせているところです。
  女性の誘惑に身をゆだねると破滅しますよ・・・という教訓のために、ルーベンスの
 友人であった地元アントウェルペンの裕福な政治家が委嘱した作品だそうです。やはり
 フランドル人(オランダ系)は謹厳実直なのかな?少なくともイタリア人よりは。

 
  さらに当然ですが、レンブラント様の作品もいくつかあります。日本の展覧会でも
 出展された自画像もありました。中でも注目はこの作品です。
  彼の妻サスキアが、花の女神フローラに扮したもので、1635年の作。ルーベンスと
 いいレンブラントといい、自分の妻を描いた絵画が少なからずあります。レンブラント
 はその他にも、登場人物の1人として妻を描き込んでいる絵画がかなりあります。まぁ
 どうしてフランドル(オランダ系)の人たちは愛妻家が多いのでしょうか?イタリアの
 画家で妻を自主的に描いた人は記憶にないですね。国民性の違いか・・・
 (そういうあんたはどうなんや?by妻)

     

 
  最後は、そうです。私も好きなフェルメール様の作品で〆させて頂きます。
 ここナショナル・ギャラリーにも彼の貴重な2つの作品が所蔵されています。


  一枚目は「ヴァージナルを弾く少女」(1670年頃)です。日本の展覧会にも出展
 されましたので、東京でも見ることができました。彼の後期の作品なので、ちょっと
 ゴチャゴチャ感がありますね。演奏している少女がこちらを向いているのがちょっと
 わざとらしいかな?ヴァージナル(チェンバロのような鍵盤楽器)の蓋に描かれた絵
 (風景画)や壁に描かれた絵は、「絵の中にある絵」という面白さがありますね。

     

 
  2枚目は「ヴァージナルの前に立つ若い女」(1672年)です。前作と似たような
 題材ですが、こちらはなぜか立って演奏しています。女性がこちらを向いているの
 は同じですが、向きが違いますね。そして背景の絵が更にはっきりとした意味合い
 を持っているようです。トランプのカードを1枚掲げたキューピッドの絵は、何やら
 色恋ごとを暗示しているようですね。やはり、なんとなく気になる絵です。 
       手前に置かれた椅子は、誰か(男)の存在を暗示している、というのは下衆の勘
 ぐりでしょうか?そういえば前の絵も手前にチェロの前身のような弦楽器があります。

 誰か(男)とは、この絵を描いているフェルメール自身なのかもしれませんね。
     


   もう1時間半は優に過ぎました。残り30分でどれだけ見られるか・・・
   (やっぱり時間との競争になっとるな、美術館でもドタバタや、by妻)


   あと一回で終わるだろうか・・・2020年も残すところあと3日・・・