Bonne(ボンヌ)のブログ

死別者ですが余生は少しでも楽しく

2019夏:英国 ㉜ナショナルギャラリー ~その4~

   年の瀬も押し迫って来たのに、何を呑気に昔の旅行の記事を書いているのだ、と
  いう誹りの声が聞こえてくるようですが(苦笑)続きです。なんとか今回で、長い
  美術館シリーズを完了させたいと思います。


   どこまで行きましたっけ?あ、フェルメールか。17世紀だね。では続きはこの方
  から。スペインの巨匠、ディエゴ・ベラスケスの「ヴィーナスの化粧」(1650年頃)
  です。ルネサンスや宗教改革を経てだいぶ自由が浸透してきたヨーロッパにあって、
  反動宗教改革といいますかカトリックの超強硬派の支配が長らく続いたスペインは
  陰鬱な宗教的弾圧のなかで、芸術的な面では後進国になっていました。(王や貴族
  がイタリアやフランドルから芸術家を呼び寄せていました。ルーベンスやティツィ
  アーノのように。)
   そのスペインでは、独創的な宗教画家であるエル・グレコ(ただしギリシャ人)
  以来の巨匠ベラスケスさんは、やはり王家(当時はハプスブルク家)の宮廷画家の
  立場ではありましたが、このような絵を描いても身辺に危険が迫ることはなかった
  ようです。というか、たぶん王家や有力者からこのような絵を描くようせがまれて
  いたのでしょうね。地位が高かろうがなんだろうが、スケベなオッサンが芸術作品
  誕生に寄与していたのですね。(オッサンたちはこうして自らを正当化します。)
   この絵はキューピッドの掲げる鏡に顔が映ったヴィーナスを描いていて、ちょっと
  面白いアイデアですね。ベラスケスの作品は他にも何枚かありました。


  先を急ぎます。時代は下って18世紀、フランス革命・アメリカ合衆国の独立など、
 王侯貴族の時代が終わりつつあるなかで、絵画芸術にも市民(といっても新興金持ち
 ブルジョワ)の影響力が増しつつありました。つまり、画家に絵画を委嘱する人たち
 に、裕福な市民が加わりました。(フランドル・オランダではかなり早かったけど)
  その代表的な絵がこれ、英国の画家トーマス・ケインズバラさんの作品、「ウィリ
 アム・ハレット夫妻の肖像(朝の散歩)」です。1785年作ですから、フランス革命の
 寸前ですね。これは新婚夫妻の記念のために描かれたそうで、金持ちのパパが頼んで
 描かせたのでしょうね。でもなんとなく時代の雰囲気を感じられるような気がします。
 産業革命後に事実上世界の覇権を握った大英帝国の、裕福な上流階級の余裕みたいな
 ものを感じてしまいます。  

    


  続いて19世紀絵画。古典的絵画を良しとするアカデミズムと、それに挑戦しようと
 する(つもりだった訳ではないけど結果的にはそうなった)新しい絵画を目指す動き
 が胎動し、多種多様な作品が生み出されてきました。
  古典的絵画の代表作、フランス人画家ポール・ドラルシュの作「レディ・ジェーン
 グレイの処刑」(1833年)です。1554年に英国王家の相続争いの犠牲となり、17歳の
 若さでロンドン塔に幽閉され、処刑されてしまった悲劇の少女を描いたものです。  
 題材も画風もまさに「古典的」。無実の罪で斬首されてしまういたいけな少女、あまり
 に理不尽で残酷な事件ゆえに、歴史画を描く画家たちの想像力を掻き立てたのでしょう
 か。あまり気持ちのいい絵ではないですね。(そんなら載せなきゃええやろ。by妻) 
 


  一方で、既存のアカデミックな絵画と一線を画し、急速に発展する近代社会を背景
 にして新たな可能性に挑戦する画家たちも現れてきました。絵画において最も有名な
 のは「印象派」と呼ばれる画家たちですね。今ではもう「革新」ではなくて、歴史的
 評価も高まった偉大な芸術家たちです。
     まずはなんといっても印象派を代表する巨匠、クロード・モネさんです。彼の作品は
 かなりの数が展示されていましたが、やはりロンドンですからこれ ↓ にしました。  
  「テムズ川と国会議事堂」(1870-71)です。靄のかかるなかの印象的な風景です。
 霧のロンドンのイメージにぴったり。

 

  そして、後期印象派というか、印象派という範疇を超えてしまった天才画家ファン・
 ゴッホの「ひまわり」です。日本での展覧会でも出展されて大人気でした。しかしまぁ
 この色彩感覚は尋常ではないですね。これは日本では行列のできる名画ですが、ここ
 ナショナル・ギャラリーでは並ばずに、誰にも邪魔されずにじっくり鑑賞できます。
 (そんな時間はないけどな。by妻)

     

  
  もう一つ、「点描派」と呼ばれる画家ジョルジュ・スーラの「アニエールの水浴」
 (1884年)です。この画家の一大傑作であるシカゴ美術館の「グラン・ジャット島の
 日曜日の午後」と着想が同じで、そのミニ版という感じです。しかし、まぁどうです、
 この色彩感。暖かな陽だまりの中で、川べりで泳いだり日光浴する人たちがのっぺら
 ぼうみたいに無表情なのが面白いですね。

  印象派ど真ん中の画家だけでなく、その先駆者たちや、ポスト印象派と呼ばれる後に
 続く画家たちの作品もたくさんありました。日本人の大好きなゾーンですね。しかし、
 あまり混雑もなく、ゆったりと作品を鑑賞し、スマホで撮影することもできました。


  それでは締め括りに英国を代表する画家、ウイリアム・ターナーさんに登場頂きま
 す。「解体のため最後の停泊地に曳かれていく戦艦テメレール号」(1839年)という
 長いタイトルですが、彼の代表作の一つです。
  テメレール号とは、有名なトラファルガーの海戦で有名となった船らしいのですが、
 かつての栄光を思わせるその凛々しい船体は、日が沈むテムズの川べりを、時代の主役
 となった蒸気船に静かに曳航されていきます。なんともノスタルジックな光景です。

 
  こうして約2時間かけてナショナルギャラリーを駆け足でめぐってきました。一部、
 慌てて見損なってしまった作品もありましたが、西洋絵画史をたどるように数多くの
 著名画家の名作・傑作を鑑賞することができて大変満足です。こんなに所蔵品が充実
 した美術館は世界でもそうそうないですね。またいつか来たいです。
  出口付近の壁には、フランスの19世紀の画家ピュヴィ・ド・シャヴァンヌの作品、
 「洗礼者ヨハネの斬首」が掲げられていました。

    

 
  もう午後5時を過ぎました。これでロンドン観光は終了です。長い一日でした。
  (ホンマ長すぎやで、このブログの記事は・・・by妻)
  このあとは、ロンドン屈指の高級ショッピング街に出かけ、ウィンドウ・ショッ 
 ピングです。(なんや、ワインを買ってお金がなくなってしもうたんやな。by妻)