Bonne(ボンヌ)のブログ

死別者ですが余生は少しでも楽しく

2025年4月:大塚国際美術館 ⑤中世美術の意外な楽しさ・・・その2

  今夜は大塚国際美術館の続きです。

  あまり関心のなかった中世美術コーナーでしたが、こんな作品があるのかと驚くほど

 ヨーロッパ中の優れた作品が数多く展示されており、予想以上に見学に時間を要しまし

 た。この後の予定を変更せざるを得なくなったほどです。


  フランスの中世ロマネスク美術、ギリシアの東方教会のビザンチン文化のフレスコ画

 を堪能した後も、中世の美術品をじっくり見学しました。(誰や、10分で「流す」なん

 て不届きなことを言っていた奴は・・・by妻)

  それにしても陶板画でこれだけの作品を遺すとは、準備(著作権の承諾も含めた作品

 所有者との交渉)も大変だったでしょうね・・・構想から実現までにどのくらいの時間

 と労力をかけたのでしょうか。それを思うと、本当にどえらい事ですよね・・・

 (名古屋弁か?)


  まずは驚きの作品。ビザンチン帝国(東ローマ帝国)の統治下にあった紀元6世紀の

 エジプト・シナイ半島の修道院にあったという板絵のキリスト像と、聖母子を囲む聖人

 たちの像です。この後7世紀にはアラブ人のイスラム教徒に占領されて、以後キリスト

 教世界は日陰の身になってしまうのですが、こんなものが残っているとは・・・

  自分たちと相いれないものを徹底的に破壊する、ということをしなかっただけでも、

 この時代のイスラム教徒はマシだったのかな・・・陶板画のレプリカとはいえ、こんな

 作品を間近に見られてコーフンしてしまいました。(どうどう、落ち着け。by妻)

   


   お次も6世紀の板絵、恐らくエジプトで発見されたものをフランス人(もしかして

 ナポレオンの遠征の時かな?)が略奪してルーヴル美術館に所蔵されている作品みたい。

 キリストと聖人メナスさんが肩を並べているところです。キリストと同席して「ハク」

 をつけてもらっていますね。なんだか有力政治家に応援演説に来てもらっている当落線

 ギリギリの候補者みたいな感じです。(どういう喩えやねん、アホ!by妻)

  3等身?で描かれたキリストと聖人は、なんだかマンガみたいでカワユイ感じです。

 6世紀の女子向けのサービスでしょうか?(んなわけあるかい!by妻) 

  背景にはギリシア文字も刻まれています。この頃は文字を読める方がそれなりに居た

 のかな。西方では正統ローマ帝国が消滅した後は、時間の経過とともに知識人(ローマ

 の文化を伝える人)はいなくなり、わずかに生き残った人たちがキリスト教の修道院で

 細々と生活するだけになりましたので、一般人は文字の読み書きができないという時代

 になってしまいました。しかし、その方がキリスト教会にも(人々を洗脳し、自分たち

 が上に立つには)都合が良かったのです。それが中世が「闇黒時代」と呼ばれる一つの

 要因だと思います。

  ローマ文化が(多少変化した形で)残っていたビザンチン帝国では、まだ読み書きの

 できる大衆が残っていて、彼らに言葉を使っていろいろなことを教える知識人も存在し

 ていたと思われます。しかし、オスマントルコによるビザンチン帝国の征服によって、

 ローマ文化の最後の砦であったコンスタンティノープル(現トルコのイスタンブル)が

 陥落する前に、文化人たちが比較的近いイタリアに大量に逃れてきました。そのことが、

 イタリアで文芸復興(いわゆるルネッサンス)が陽の目をみることになった大きな理由

 の一つだと言われていますね・・・(またまた脱線しとる・・・by妻)


  さぁ、まだまだあります。こちらもエジプトのシナイ半島の修道院にあった板絵です。

 時代は下って13世紀、つまり十字軍の頃なのですが、この頃にもエジプトの修道院が存

 在し、このような信仰が守られていたのですかね・・・

  この仏頂面のジイサンは、聖人ニコラウスさん。彼の生涯を描いた小さな絵が肖像画

 の周りをぐるっと囲んでいるのが楽しい。実は彼はサンタクロースのモデルらしいです。

  こうしてみると、現在のキリスト教世界ではないエリアにも、中世のキリスト教美術

 が残っている(当時はキリスト教の信仰が残っていた)とは驚きです。


  ビザンチン帝国の統治下にあった東ヨーロッパにも、中世美術が残っています。現在

 の北マケドニア(ギリシアの北側の国)に残っている壁画「十字架降架」です。

  かなり損傷が激しいですが、ひょっとしたらイスラム教徒支配時代に塗りつぶされて

 いて、後から復元されたものかもしれないですね。でもかなり鮮やかな色彩が残ってい

 ます。キリストを始めとする登場人物の皆さんは、なんだかちょっと不自然な格好です

 が、そんなことは信仰には関係ありませんから問題なしです。😆 でも、現代人の目で

 見ますと、そういうところがなんだか楽しい感じがしないでもない・・・


  もう一つ、ギリシアの教会に残っていた壁画です。「キリストの哀悼」ですね。聖母

 がキリストの遺体にすがりつき涙を流すシーンです。インスタ映えするため、ちゃう、

 信者にインパクトが与えられるため、この後も教会の壁画に好んで描かれる題材です。

 平面的でのっぺりした絵で、キリストが死後硬直なのか?真っすぐにピンと体が伸びて

 いたり、聖母や弟子たちの体形もなんとなく不自然に感じますが、それでも聖母や弟子

 たちの心からの嘆きが伝わってくるような感動的な作品だと思います。魂がこもってい

 る、という感じですかね・・・


  お、この絵はどこかで見たことがあるぞ・・・

  そうだ、現トルコのイスタンブル(コンスタンティノープル)の、ハギヤ・ソフィア

 (アヤ・ソフィア)大聖堂にあるモザイク画のコピーですね。

  ハギヤ・ソフィア寺院はオスマントルコ時代にモスクとして使われていたので、内部

 のキリスト教の美術品は上塗りされてしまっていたようですが、現代トルコが世俗国家

 になったために、修復されています。そして今では一大観光名所となっていますね。

 オッサンもここは一度訪れてみたいのですが、その前に陶板画で見る事ができました。

  「尊厳のキリスト」タイプの肖像ですが、なんとなく優し気な目元です。当時のキリ

 スト教世界の中心地の、総本山ですから素晴らしい作品が求められたのは当然でしょう

 ね。この時代の美術作品としてはピカイチだな。(13世紀の作品だそうです。)


  お次は、何とシチーリア・パレルモにある美術品。12世紀のノルマン王朝時代に制作

 されたノルマン王宮のパラティーナ礼拝堂にあるモザイクです。ここには、オッサンは

 2007年に妻と訪問したのですが、あいにくモザイクは修復中で主要部分は見られません

 でした。まさかここで陶板画のレプリカとはいえ、見学できるとは・・・

  キリストのエルサレム入場のシーンでしょうか。馬に乗って堂々と登場するキリスト

 と弟子たち、それを待ち受けるエルサレム(ユダヤ教徒)の人たち。しかし前景には、

 服の脱ぎっこ?をして遊んでいる子供たちが描かれています。なかなか楽しいですね。

  当時のシチーリアは、支配者だったアラブ人と戦って勝利した北ヨーロッパから遠征

 してきたノルマン人が新たな王朝をたてたのですが、古代ローマ人の戦略と同じで少数

 の征服者が多数の住民(アラブ人やイスラム化した住民)を支配するために、寛容政策

 を採用しました。当時西ヨーロッパはローマ法王庁を中心にした宗教的権威が王権より

 も強い時代でしたので、アラブ人を排斥せずイスラム教徒の信仰も認めたノルマン朝の

 王様たちは異例の存在だったようです。逆に、当時はキリスト教世界よりも文化的にも

 技術的にも進んでいたイスラム教徒から、いろいろな技術を学び取ったのです。この、

 モザイク画もその一つ。北イタリアのラヴェンナのモザイクは、東ローマ帝国の支配下

 で造られたものですが、シチーリアのモザイクはノルマン朝が新たに造らせたものです。

 そうそう、お堅いローマ法王庁も、ノルマン朝の王様のイスラム教に寛容な姿勢は許せ

 なかったようですが、彼らが伝えたモザイク画の芸術は許されたようです。ローマにも

 この時代以降のモザイク画が残る教会がありますからね。


  最後に、西ヨーロッパの中世美術でもう一つ面白いものをご紹介します。

  なんじゃこりゃ、と思わせるマンガのような稚拙な(失礼)絵ですが、これは貴重な

 スペイン・カタルーニャ地方のロマネスク美術の代表作です。

  中央に描かれた聖人たち(聖女ユリッタとその息子キリクス)が殉教した痛々しい?

 シーンを、その周囲に描いたものです。まぁ、頭に釘を打ち付けられたり、お腹に剣を

 突き刺されたり、頭から上半身をのこぎりで真っ二つにされたり、挙句のはてに釜茹で

 にされたりしたみたいです。しかし、こんなにリアルに描かなくてもいいのでは・・・

 こんなに残酷なシーンを見せられますと、キリスト教を信じていると、こんな酷い目に

 遭う、というふうに逆効果にならないだろうか・・・(アホ)

 いわゆる「怖い絵」ですが、何となくユーモラスな感じもして笑ってしまいます。

  それにしても赤と黄色、黒を基調とした独特の色彩が印象的です、カタルーニャ地方

 の独特のものらしいです。実はコレ、2006年にバルセローナに行った時にカタルーニャ

 美術館で見たものです。うげーっと思ったのでよく覚えています。そういえば、この時、

 妻はミロ美術館に行きたかったようですが、鈍いオッサンはそれに気づかず自分の行き

 たいカタルーニャ美術館にしてしまったのでした。

  (まぁ、自分勝手なオッサンやからな。by妻)


  いやぁ、思った以上にすばらしいですぞ、大塚国際美術館の中世コーナーは。そして、

 コレで終わりではありません。もう一回、中世美術展示コーナーが続きます。  

  悪しからず・・・