十三代目團十郎・八代目新之助襲名披露公演 ~その1~
昨日は一日がかりで歌舞伎座で開催中の、十三代目團十郎および八代目新之助さんの
襲名披露公演を観劇してきました。昼の部と夜の部のぶっ通しは初めてです。観る方も
疲れますが、出演される俳優さんたちは大変ですよね・・・しかも毎日ですからね。
ましてや襲名披露公演ともなれば一世一代の晴れ舞台、緊張しない方がおかしいです。
それを、まだ9歳の新之助さんが主役を張る演目で観客を魅了してしまうのだから、末
オソロシイ・・さすがは市川宗家の御曹司、立派な役者に育ってほしいです。
昼の部の最初の演目は、襲名披露公演のために書かれたご祝儀演目。歌舞伎俳優たち
が総出で、この歌舞伎界きっての大名跡の襲名披露公演を祝います。
そして2演目めが市川團十郎家の家の芸、歌舞伎十八番ノ内のひとつ「外郎売(うい
ろううり)」です。これは先代の十二代目(故人)が復活させ、当代が幼少のころにも
(早口言葉の部分だけを)演じたそうですが、それを八代目新之助さんがフル出演にて
演じます。つまり、外郎売に姿を変えて親の仇を討とうとする曽我五郎時致(ときむね)
を演じるのです。9歳の子が、果たして大丈夫なのか・・・と最初は思いました。
しかし心配ご無用。さすがは役者の子です。早口言葉のセリフだけでなく、血の気に
逸る若き曽我五郎の動作や表情を、きちんと演じています。これ、セリフだけではなく
動きや間合いなども全部覚えているのですよね、当たり前でしょうけど・・・凄いです。
写真は筋書(プログラム)に乗っていたものです。親の仇、工藤祐経(すけつね)
を演じる菊五郎さんが暖かなまなざしで見守っているのが印象的でした。先代團十郎
さんとは同級生、毎年五月の団菊祭でともに江戸の歌舞伎を盛り上げた菊五郎さん。
亡き先代のお孫さんの初舞台には、後見人のような思いだったでしょう。
そう、我々一般人には伺い知れないのですが、歌舞伎界というのは親はもちろん、
親戚筋、お師匠さん、共演する大先輩たちから有形無形の教えを受け、数々の舞台を
踏み、同じ役を何度も繰り返しこなしながら芸を磨いていくのだと思います。これか
ら新之助さんの長い役者人生が実りあるものでありますよう、お祈り申し上げます。
そして昼の部の最後は、真打十三代目團十郎白猿さんの登場です。題目はこれまた
歌舞伎十八番ノ内、しかも最も有名で最も上演回数が多い、ご存知「勧進帳」です。
このストーリーは言わずと知れた、主君義経を助けてピンチを乗り切る武蔵坊弁慶の
武勇伝です。能の「安宅(あたか)」が原作で、加賀の国の安宅関を守る関守・富樫
(とがし)と弁慶の丁々発止のやりとりに胸を熱くし、大胆さと機知で二度のピンチ
を乗り越える弁慶と、それに心から感謝する義経に涙してしまいます。史実では、兄
の頼朝に敵視され、「指名手配」されてしまう義経、安宅関を乗り越えて奥州藤原氏を
頼り、平泉に落ち延びていくのですよね・・・この芝居に貫かれる弁慶が義経に尽くす
「忠義の心」、偽りと見破りながらもその忠義の心に打たれて義経一行を見逃す富樫の
「仁義」という、日本人の心の琴線に触れるストーリーは思わずオッサンの目頭を熱く
させます。と自分で書いていながら、涙が浮かんできたよ。(ヘンタイか? by妻)
そうそう、「判官(ほうがん)びいき」という言葉は、この才能ある武運つたなき若
武者義経(判官殿)を、後世の人々が親愛の情を込めてその生きざまを伝承していった
ことから生まれたと言われていますね。鎌倉殿の十三人がもてはやされる前に、鎌倉殿
の実弟義経は、兄頼朝に謀反の疑いをかけられ、奥州藤原氏の本拠地平泉の地で非業の
死を遂げることになります。その義経を最後まで体を張って守り通し、ついには無数の
矢を体に浴びても倒れることなく絶命したという「弁慶の立ち往生」。歴史は常に勝者
のためにあると言いつつも、優れた敗者たちにも時にはスポットライトが当たるという
一例です。ま、鎌倉幕府の源氏の血筋が早々に途絶えたので、そういうことも話しても
大丈夫になっていったのかもしれませんね・・・
オッサン、歌舞伎の話はどうなったんや・・・(by妻)
あ、またまた脱線しました、スミマセン。その「勧進帳」ですが、弁慶を團十郎白猿、
義経を猿之助、富樫を幸四郎という、現代の歌舞伎界を背負って立つべき看板役者たち
が演じます。この芝居の事実上の主役は立役の弁慶であり、豪快な荒事の所作もあって
歌舞伎の登場人物の中でも一・二を争うヒーローですね。團十郎さん、しっかり演じて
いました。冒頭の、「たび~のころもはぁ、すずぅかけのぉ~」のくだりから、物語は
始まります・・・みどころはたくさんあるのですが・・・ここでは割愛。
このシーン ↓ は、ピンチを乗り切った後、主君の義経に非礼(義経の素性を見破られ
ないように金剛杖で義経を打ちのめしたこと)を詫びる弁慶に対して、それを許しつつ
「私を助けてくれた」と感謝する義経。「ほう~が~ん~、おん~て(手)ぇを~」の
ところで毎回泣いてしまうオッサン・・・(よく泣くオッサンや・・・by妻)
最後は舞台に幕が下り、花道に一人残る弁慶の引っ込みの場面です。舞台に向かって
深々と一礼する弁慶。これは、富樫が「(義経一行と)知っていながら見逃してくれた」
ことを弁慶もわかっていて、口には出せないけれども感謝の気持ちを表しているのです。
そしてつんざくような笛の音が鳴ると、かの有名な、荒々しい「飛び六方(とびろっ
ぽう)」での引っ込みです。カッコいいです!
あ、写真は全部筋書に乗っていたものを使わせて頂きました。松竹さん、お許しを。
幕間(まくあい)の緞帳(どんちょう)は、この襲名披露公演のために制作された特別
なものでした。歌舞伎十八番の各演目の主役たちが描かれています。「外郎売」の曽我五
郎、「勧進帳」の弁慶、「鳴神」の鳴神上人、「暫」の鎌倉権五郎、「毛抜」の粂寺弾正
などなど・・・楽しいですね。
予想通り長くなってしまいましたので、ここでいったん中断します。
夜の部は次回です。(オタク記事なのに、引っ張るの~ by妻)
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