Bonne(ボンヌ)のブログ

死別者ですが余生は少しでも楽しく

2019夏:英国 ㉙ロンドン・ナショナルギャラリー その1

  あと残り6日、終わるかな? 英国編の続きです。


  トラファルガースクエアに面したナショナルギャラリーの見学に参ります。ここは 
 世界最高峰の美術館であり、西洋美術史の精髄である歴史的傑作絵画が数多く所蔵さ
 れています。この旅行でも楽しみの一つでした。


   入口は何か所かありますが、私はイタリア絵画を先に見たかったので広場に面して
  左側の入口から入りました。驚いたことになんと入場料は無料。どんな人にも芸術を
  楽しむ権利があるから、だとか。カッコよすぎるぜ英国!しかしお金のある人は寄付
  をしてねということで、私は1£を払いました(ケチやのう。by妻)。


  この広大で膨大な所蔵品を誇る美術館を二時間で回るのはかなり無謀ですが、でき
 るだけ効率よく回るために「どこに何があるか」を把握しておくのは重要です。私は
 基本的に時代が古いものから順番に見るようにしていますので、まずはイタリアから。
 14世紀、ルネッサンスの先駆者というべきトスカーナ地方の画家たちから見学します。
  
  これ ↓ は14世紀初頭、イタリア中部のシエナで活躍したドゥッチオ・ディ・ブォニ
 ンセーニャの聖母子像です。左右の扉に聖ドミニクスと聖アウレリアが描かれた祭壇
 画ですね。本来あった場所から切り離されて、ここロンドンの美術館のガラスケース
 の中に展示されているのはある意味では残念ですが、イタリアの片田舎(失礼)まで
 行かなくても、ここでこのような歴史的名画を見られるのは有難いですね。
  この絵は中世の宗教画のような雰囲気を残しながらも、聖母と幼子キリストの表情
 が人間的になっています。幼児キリストが聖母マリアの頬に手を添えているなんて、
 中世ではありえない構図ですね。「人間らしさ」を取り戻しつつあったルネッサンス
 初期の傑作です。1315年頃の作、日本でいうと鎌倉時代後期ですね。

 
  古典的イタリア絵画をもう少し。フィレンツェで活躍した夭逝の天才画家マザッチョ 
 の絵画がありました。遠近法を取り入れた立体的な絵画の創始者ではないかと言われて
 います。レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロも彼の作品から学んだと言われて
 います。制作は1426年、ピサの祭壇画の中央を占めていたと思われる聖母子像です。
 なるほど、奥行きを感じさせる構図ですね。中世の平べったい板絵を超越しています。

      


  もうひとつ、今度はヴェネツィアで活躍したジョヴァンニ・ベッリーニの作品。
 「ゲッセマネの園のキリスト」です。現実主義者ヴェネツィア共和国においては、宗教 
 的な題材もかなり写実的に描かれてきました。明らかに時代は進んでいますね。
  この作品は1465年頃の作とのことです。1453年にコンスタンティノープルが陥落し、
 東ローマ帝国が滅亡した後、古代ギリシャ・ローマの文明がヴェネツィアを通じて西側
 キリスト教世界に流入してきたことで、ルネッサンスの活動がさらに加速してきた時代
 ですね。もう完全に人間らしい絵画になっています。

   
  イタリア・ルネサンス期の画家の中で異彩を放つのは、シチリア出身アントネッロ
 ・ダ・メッシーナです。フランドルで学んだ油絵技法を駆使して、宗教画だけでなく
 当時のイタリアでは画期的な、人物の肖像画を描きました。私はシチリアで見た有名
 な「アンヌンツイアータ(受胎告知)の聖母」に衝撃を受け、それ以来好きな画家の
 1人です。この「ある男の肖像」と呼ばれる絵は、画家自身を描いたものだと言われて
 います。もしそうだとすればイタリア絵画史上でも初めての出来事です。
 (あのボッティチェッリや何人かの画家が、自分の画中に自分の姿を描き入れることは
 ありましたが、完全に自分が主役というのはそれまでは無かったはずです。)
 鏡に映して描いているので寄り目になっているのかなぁ? 1475年の作との事。

     

  
  お次はイタリア・ルネサンス絵画と言えばこの人、サンドロ・ボッティチェエリ様
 です。誰もがご存知のフィレンツェのウフィッツィ美術館の至宝「ヴィーナスの誕生」
 と「プリマヴェーラ(春)」を描いた、ルネサンス時代の寵児ですね。この頃からは
 キリスト教とは全く関係のない(邪教扱いされていた)古代ギリシャ・ローマ神話の
 題材が描かれてきます。辛気臭い(失礼)キリスト教のお説教なんてしゃらくせぇ!
 みたいなノリで、バンバンぶっ飛んだ絵を描いてきましたサンドロ君。
  ここには「ヴィーナスとマルス」という絵があります。これは一種の寓意画で、愛
 の女神ヴィーナスと戦争の神のマルスを描いたものですが、情事の後に油断して?
 まどろむマルスの兜や甲冑を、ヴィーナスの命令で半獣半人の牧神パンたちが奪って
 いくところです。愛が軍を無力化する、ということなのでしょうかね。1485年の作。

  イタリア・ルネサンス絵画の〆は、やはりこの方。人類史上最高の天才の1人、画家
 であり建築家であり、科学者であり、土木技術者でもあったレオナルド・ダ・ヴィンチ
 様です。有名な「岩窟の聖母」という作品で、1492年ごろに制作され、後に補筆された
 と言われています。どうでしょう、この構図。計算され尽くされたような人物の配置。
 宗教画でありながら、どこか謎めいていて引きずり込まれるような感じがします。この
 研ぎ澄まされたような静謐な瞬間が、そのまま絵の中に閉じ込められたような印象。
  それにしても彼の描く人物像はどこか現実離れしていて、天井ちゃう天上の人のよう
 なイメージがありますね。

     

  ご紹介したのはごく一部ですが、ここまでで約1/3。既に40分以上経過しています。
  まだまだ続きます。