Bonne(ボンヌ)のブログ

死別者ですが余生は少しでも楽しく

ポンペイ展:古代ローマの記憶 ②神々との共存

  東京の国立博物館で4月3日まで開催されているポンペイ展の続きです。
  紀元79年にヴェスヴィオ火山の噴火で埋没した古代ローマ時代の遺跡のポンペイや、
 その周辺の遺跡から出土した遺品を集めたイタリア南部ナポリの国立考古学博物館など
 の貴重な収蔵品を、日本に居ながらにして見学させてくれるという有難い展覧会です。
  しかもなんと、現地の博物館同様に、写真撮影OKでした。ということで、オッサンは
 バチバチ撮影してきました。(図々しいヤツやな・・・by妻)


  入口から入ると、映像コーナーでポンペイがヴェスヴィオ火山の噴火で埋没し、滅亡
 してしまうシーンの再現と、発掘調査の様子などが流れています。そしてその復元状況
 や、想像される古代ローマの人たちの生活などを映像で見ることができます。展示され
 た作品を見る前に、古代ローマ時代をイメージしておくといいのでしょう。
  そしていきなり、例の「人型」が展示されていました。これ、オッサンは苦手です。
 あの日、噴火に伴う火砕流で一瞬のうちに亡くなった方々が、その後に降り積もった灰
 に埋もれ、雨に濡れて固まってしまった地層のなかで、長い年月をかけて有機物として
 分解されて空洞になった箇所がいくつも発見されたそうです。いや、正確に言うと発見
 当初はなぜ空洞がたくさんあるのか不明だったそうですが、そこに石膏液を流し込んで
 固めてみると・・・なんとリアルな人型が現れたということです。これ、もの凄い発見
 であり、歴史的真実を裏付ける貴重な遺物なんでしょうけど・・・オッサンはパス。
 不幸な人々のご冥福をお祈り申し上げます。
  
  あ、噴火前のヴェスヴィオ火山の様子が描かれた彩色画がありました。噴火前は緑に
 覆われ、斜面にはブドウ畑が広がっていたようです、ワインの神様バッカス様と、蛇の
 絵が描かれています。蛇は医術をつかさどる神アスクレピオスを表しているのかな? 

      


  さて、最初のコーナーは古代ローマ時代(帝政初期)に生きたポンペイの人々の生活
 や信仰を知ることができる展示です。ポンペイ遺跡はまだすべてが発掘し終わっていま
 せんが、西側と南側は発掘が進み、どんな建造物があったのか、どのようなものが使わ
 れていたのかがわかっています。

    


  古代ローマ時代は人間が主役となった、歴史上稀な幸福な時代と言われていますが、
 そこに生きる人々の暮らしも当時としては考えられない程に高度で、2000年近く前にも
 このような優れた文化的生活が可能であったことに感銘を受けます。   
  下のフレスコ画は、町の中心広場(フォールム)に集まった当時の人々の姿を描いた
 ものです。ポンペイの町の東側、円形闘技場に近いユリア・フェリックス(幸福な者)
 の家と呼ばれる遺跡で発見されたものだそうです。邸宅のアトリウム(天井の空いた
 広いオープンスペースで、応接間みたいなものでしょうか)に飾られていたそうです。
 人に見せる(自慢する)目的=つまり商用として制作されていたのですね。
  フォールム広場では商いをしたり、塾が開かれていたり、たまには政治集会?が開か
 れていたりして、人々の集まる場所として活気にあふれていたようです。このフレスコ
 画は保存状態がまずまずで彩色も残っており、庶民の人たちの服装や表情が生き生きと
 表現されています。 


  続いては、青少年が鍛錬のために通っていたという体育施設(パエストラ)に設置さ
 れていた大理石彫刻です。この「槍を持つ人」と呼ばれる青年裸像は、古代ギリシアの
 優れた彫刻家ポリュクレイトスのブロンズ(青銅)像を、古代ローマ人が大理石で摸刻
 したものと言われています。オリジナル作品は紀元前5世紀といいますので、まさしく
 古代ギリシア文化の華、都市国家アテネの(衰退直前の)全盛期だったと思われます。
 まぁ、とにかく傑作中の傑作。よくこんな傑作を日本まで持ってきてくれたものです。
    

   


  古代ギリシアでは、青年の裸像は理想的なものとされ、しばしば神々をあらわすもの
 として制作されました。ローマ皇帝(実在の人物)も、死後に「神格化」されると、神
 として敬われますので、その姿は裸体になるようです。しかし年老いたオッサンの裸体
 では見苦しいので、往々にして若い容貌で造られたようですね。(忖度やな。by妻)
  そうそう、フォールムには神格化された初代皇帝アウグストゥスの像があったりした
 そうです。この展覧会ではポンペイではなく、二番目に有名な遺跡であるエルコラーノ
 遺跡のフォールムから出土したアウグストゥスのブロンズ製の胸像が展示されていまし
 たが、まさしく「若作り」していますね。アウグストゥスは自らの統治の施策として、
 大量の自分の肖像彫刻をコピーし、帝国内にくまなく設置させたということです。宣伝
 の重要さを認識していたということですね。

   


  古代ローマ人も文化的にはギリシア人を見習って、こうした彫刻をたくさん製造して
 フォールムや劇場、体育施設や浴場などに飾っていたそうです。古代ギリシアもローマ
 も、日本と同じ多神教ですので、「ご利益を恵んでくれる神様は多いほど良い」という
 考えだったのでしょう。一神教のような堅苦しさはなく、人間と共存する神々なのです。
  それでは、展示されていた神々を表現した作品をいくつかご紹介します。


  ちょっとギリシアのアルカイック様式のようなアポロ像です。こちらはメナンドロス
 さんの邸宅の中庭に設置されていたそうです。これも大理石製ですね。頭には月桂冠を
 被り、傍らにはアポロンを象徴する聖獣グリュプスが控えています。左手にはアポロン
 の象徴である竪琴があったらしいのですが、発掘時には失われていたとのことです。
 ちょっと謎めいた微笑がアルカイック風です。メナンドロスさんは、こういうのが好み
 だったのでしょう。

    


   続いては半神半人の怪力ヘラクレスの青銅像です。左手にヘラクレスの象徴の棍棒
 を持ち、岩場に腰かけ休息しているようです。これは紀元前4世紀の古代ギリシアの名
 彫刻家リュシッポスが、アレクサンダー大王のために制作したという「食卓のヘラクレ
 ス」のコピーなのだそうです。飛ぶ鳥を落とす勢いでギリシアを統一し、大国ペルシア
 を完膚なきまでに破り、東方遠征に乗り出した若き征服者にふさわしい作品かな・・・、

    

  
  お次はちょっとユニークな作品「ビキニのヴィーナス」です。え?ビキニ?
  この大理石像もポンペイの邸宅で発見されました。ここのご主人のご趣味を反映して
 いたようです。愛の女神ヴィーナスの裸体には巧みに金彩の模様が描かれていますが、
 それがビキニのように見えるので、そのような名前で呼ばれているそうです。沐浴前の
 女神さまがサンダルを脱ごうと足に手をやっているというシーンですが、足元にはごく
 小さなキューピッド(彼女の息子)がおり、折れた左手は「プリアプス」という生殖の
 神をあらわす立像が支えています。こういう構図のエロティックな絵画や彫刻がかなり
 見つかっているらしく、古代ローマ人は性にはかなりオープンだったようです。
 まぁ、日本でも「男性のシンボルを象ったご神体」を信仰する文化がありますからね。
 意外に似ているのかな?

    

  やはりヴィーナスは古代ローマでも人気抜群だったようで、フレスコ画もありました。
 こちらはエルコラーノ遺跡で見つかったものだそうです。なんだかグラビア女優(死語)
 みたいな感じですね。昭和の青少年(オッサン予備軍)同様、古代ローマのオッサンも
 こういうのがお好きだったのでしょうか? 
 (いつの世も、どうしょうもないな、オッサンは、by妻)     

     

  まだまだあります、今度は「三美神」様たちです。あれ、これはヨーロッパの絵画で
 よく見る題材と構図ですね。ボッティチェッリやルーベンス、ラファエロなどの名画家
 たちがこれと同じ構図の作品を残しています。このポンペイの壁画が発見される前でし
 たが、このような物語はヨーロッパ社会にずっと伝わっていたのでしょう。
  アクライア(輝き)、エウフロシュネ(喜び)、タレイア(繁栄)というお目出たい
 縁起の良い名前の女神様たちですので、恐らく女性の裸体を見る口実としてヨーロッパ
 のスケベなオッサンたちが伝承していったのでしょう。(そんなんばっかりや。by妻)
 こうして見ると、なんと古代ローマ時代には既に「型」が出来上がっていたのですね。

     

 
  最後に、古代ローマ人は異国の神様も取り入れていることを示す作品です。こちらは
 古代エジプトの宗教で、イシス神殿に飾られていたものです。イシス神殿は、さっきの
 青年裸像のあった体育施設の隣、劇場のすぐ前という一等地にありました。それなりの
 市民権を得ている(信者が多い)ということを示しています。エジプト風の衣装をした
 神官がハルポクラテス(エジプトの太陽神ホルスがギリシア化したもの)に燭台を捧げ
 ているところです。神様なので、やっぱり裸体ですね。当時のエジプト人が見たら卒倒
 したかもしれません。


  しかし、このことが古代ローマの寛容性を示していますね。征服した地を破壊する

 のではなく、ローマ人は自らの文明を征服地の属州にも広げていき、逆にその土地で

 信じられていた宗教や文化も「これはいい」というものは、積極的に取り入れていた

 ようなのです。古代ローマのもう一つの側面を垣間見た思いです。

 (オッサンは塩野七生先生の「ローマ人の物語」に感化されて、「古代ローマオタク」
 やったからな・・・by妻)


  あぁ、古代ローマのことを書こうと思うと、どうしても長くなるオッサン・・・
 続きはまたの機会に・・・(ほとんどの人が、どうだっていいと思うで・・・by妻)